やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける──日本の歌が人の心を種として、たくさんの言葉となって表れたように、言葉には人の思いが沁み込んでいる
初めて日光プリンスホテルを訪れたのは、1994年2月のことではなかったかと思う。
前年の12月23日に、国土計画がホテルに併設して菖蒲ヶ浜スキー場をオープンした直後だった。
原田知世主演の映画「私をスキーに連れてって」が公開されたのは1987年のことだが、1980年代はスキー全盛期だった。
冬は苗場や志賀高原のスキー、夏は軽井沢や清里のテニスが、若者たちのトレンドだった。猫も杓子も・・・といって良いくらいの現象だった。
ちなみに「私をスキーに連れてって」は志賀高原と万座で撮影されたそうだが、ラストシーンは横手山から万座へのツアーコースだった。
私も御多分に漏れず、この頃はスキーに夢中になっていた。そして、やがてスキー世代は結婚し、子どもが生まれると家族でスキーに行くようになった。
最初の子どもが生まれて1年目に、群馬県片品村の丸沼スキー場に子どもを連れて行ったことがある。子ども用ゲレンデのようなものもなく、リフトを登ったところの小さな丘で、子どもと橇遊びをした。
そういえば、子どもを背負って降りる時、子どもの体重が加わって殊のほかエッジがよく効いたな。
何年かして、子どもが地域の子どもたちを集めた志賀高原・熊の湯のスキーツアーに参加した。
その後で、家族で上越国際に行くことになったが、大きなスキー場には暴走スキーヤーもいたりした。
スキーブームに乗って造られたスキー場はどこも一般向けで、小さな子どもを安心して滑らせることができなかった。スキー場の一角を子ども用にしていたところもあったが、それでも橇遊びができる程度のものだった。
翌シーズンが始まる前に、連れ合いが子ども用ゲレンデのあるファミリースキー場ガイドブックを買ってきた。その中に日光菖蒲ヶ浜スキー場があった。
そのシーズンからオープンするスキー場だった。
最大斜度14度、滑走距離420メートル。短いリフトが1基あるだけの初心者向けゲレンデ。橇遊びのできる雪遊び場も設けられた、完全なまでのファミリースキー場。
それは、時代の要請だったが、あまりに退屈そうなゲレンデだった。
主役は子どもだから・・・そう納得した記憶がある。初・中級ゲレンデだけど、まあ近くには日光湯元スキー場もあることだし・・・
急斜面ばかり滑っているとフォームが崩れるので、緩斜面で滑りを整えるのも良いかもしれない・・・そんなふうにも考えた。
午前中、竜頭滝の入り口のレンタルショップで子ども用のスキー用具を借りて、菖蒲ヶ浜スキー場の駐車場に車を停めた。駐車場は満杯だった。
レンタルショップは、おそらく菖蒲ヶ浜スキー場のオープンとともにできた。はっきりとは覚えていないが、2、3年してこのレンタルショップはなくなり、スキー場駐車場脇のスキー教室事務室でスキーを貸し出すようになった。
その日は雪が降り続いていて、とても寒かった。
上の子どもに付きっきりでスキーを教えていたが、まだ橇遊びしかできなかった下の子どもは、寒風に凍えてときどき連れ合いとレストハウスで暖を取っていた。昼食は、日光プリンスホテルで食べたような気がする。
この時の宿泊は、中禅寺温泉のレークサイドホテルだった。2日目に、日光湯元スキー場に行くつもりをしていたこともあった。
翌朝、ホテルの駐車場から車を出そうとすると、ドアが凍っていて開かなくなっていた。フロントに頼んでお湯の入ったやかんをもらい、ドアやワイパーの氷を解かした。
その日は大吹雪で、とても湯元まで行く気にはならなかった。それで菖蒲ヶ浜に行って半日券を買って午前中滑ったが、寒さに大して滑ることもできず、昼過ぎに帰ることになった。
レークサイドホテルに戻って昼食を食べようとしたが、レストランは人気もなく閉まっていた。ランチタイムが終わっていたのかもしれない。
遊覧船乗り場前の中禅寺湖畔に並んだ食堂に入ろうとしたが、食堂どころか土産物屋まで閉まっていた。通りには人一人、猫一匹の姿もなく、車一台も通らなかった。
中禅寺湖は雪に煙っていた。
食べるところがない!
吹雪の中、凍えながら歩いていくと、ようやく1軒のレストランが開いているを見つけた。午後の2時頃だった。九死に一生を得た思いだった。
あの時に食べた、湯葉のスープスパゲッティの温かさと美味しさは今も忘れられない。
上の子どもは、今でもこの時のことを「遭難しかかった」と言う。
スキー場を併設したプリンスホテルは、どこもリフト券をパックにした宿泊プランがあった。
子どもと一緒に一日券を滑りきれるわけはなかったが、それ以降、日光プリンスホテルに泊まって菖蒲ヶ浜スキー場で滑るようになった。
思いのほか、このスキー場が気に入ってしまったのだった。
そして、奥日光に行く時には必ず、九死に一生を得た中禅寺湖畔のレストランにも立寄るようになった。
(写真/上から)
※かつての日光菖蒲ヶ浜スキー場。向かって左手の林に沿ってペアリフトがあった。右手の白樺の木から右が橇遊びのできる雪遊び場になっていた。
※九死に一生を得たレストランからの中禅寺湖の眺め。あの日は、窓の外は吹雪で何も見えなかった。
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